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「防衛網は突破され、ソル星系人はなんと宇宙戦艦が単艦で帝国主星の首都に乗り込んできた。首都の住民一千万人を人質にする格好で、帝国と講和・不可侵条約を結んだのよ。もし講和があと30マイナ遅れていたら、私も他の首都住民とともに命を失っていたでしょう。
皮肉なことに、ソル星系人の侵攻で各地の反乱は治まったわ。外敵への恐怖で帝国の庇護のありがたさを再認識したのでしょう。妥当な条件で帝国への再編入、服属を受け入れたわ。
それでもソル星系人との戦闘による帝国艦隊の損害は甚だしかったの。これは父の遺品になった」
ジーナは右手を握ったまま、胸の前にかざす。
「悪いが、お気の毒にとは言わないぜ。お父上は自らの信念に基づき全力で戦ったんだ。それは他の戦士たちも同じだろう」
船乗りは憮然とした表情で答えた。
「わかっているわ」
ジーナは空を見上げた。
「私も宇宙に出ていきたいの。父が見たのと同じものを見て、同じように帝国のために働きたいの」
手を広げ、徽章を見つめる。
「こんな金属の徽章でも、ぎゅっと握りしめていれば、人肌のぬくもりを持ったものになるわ。絶対零度の宇宙の中でも、星々に生命が生まれ、ぬくもりを持ったものに変わっていく。そうした星々を見ていきたいの」
その時、ジーナのクロノグラフがピーピーピーとアラーム音を発した。
「時間だわ。でも……」
埠頭には彼女たち以外に人影はなかった。
「時間切れだな。あきらめて立体映像を確認したらどうだい」
船乗りの言葉に、ジーナはデータポッドをベルトから外して操作した。表示された映像を見て目を丸くする。軍服姿の新任士官、その顔は目の前の船乗りのものだった。
「そういうことだ」
船乗り、いや新任士官は表情を引き締めた。
「ローフイッシュ・イーター技術少尉である。貴隊への転任命令を受け出頭した。受け入れよろしいか」
「は……」
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