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ラーメンを食べることが仕事になったのがそれから3年後だ。メモ帳代わりに使用していた私のラーメンブログに火が付き、ついにはテレビ局から出演の依頼が殺到した。当時の私はテレビ番組など興味はなかったが、ラーメンを食べる為だけに遠出をすることも多く、貯蓄が付きかけたこともあってオファーをすべて引き受けた。古今東西、あらゆるラーメン店へロケを行うと、初めのうちはラーメンに対する私の執着っぷりが視聴者には面白おかしく映ったのだろう。ただラーメンを食べる。それだけでしばらくの間はお茶の間を沸かすことができたが、新しい物好きの彼らはすぐに私から興味を無くした。それでも、いくばかの金を手にした私は人知れずラーメンを食べ続け、ようやくこの時が来た。
・・・ついにこの店が記念すべき一万件目。
長かったというべきか短かったというべきか・・・。様々な感情はあっても私のすることは変わらない。商い中と書かれた赤暖簾を淡々とくぐり、ラーメンを食すだけ。
「いらっしゃい!」
初めに店主の威勢のいい挨拶が耳を劈き、私は店内をぐるりと見渡した。どうやらこの店は当たりらしい・・・。飯時でも無いのに店内には複数の客の姿が見え、坊主頭の店主は冬だというのに汗をかき乱している。おそらくリピーターが多いのだろう。私は心の中でほくそ笑むと、さっそくラーメンを注文した。店主は「あいよ!」っと返事をし、手際よくラーメンを作り始めると、わずか数分後には私の下にできたてのラーメンが。
「なるほど。よくできている」
既に9999件のラーメン店を食べ歩いた私には、見ただけでこの一杯に掛けられた情熱が手に取るように分かる。魚粉と豚骨のダブルスープを基本としたラーメンは細縮れ麺とよく絡み、程よいコクを引き出している。付け合わせの具も間違いなく自家製の物で、既製品に頼らないところに店主の熱意が伝わってくる。久方ぶりの当たりに私はニヤリと一人ほくそ笑み、ラーメンを食した。
・・・
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