(二)フラメンコ

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 突如、万雷の拍手が会場に響いた。その登場を待ちかねたように、沙織もまた激しく手を打ち始めた。何ごとかと目を上げると、四人のダンサーがステージに並んで踊り始めた。目をこらしてみると、外人のようだ。沙織の耳元で「有名なのか?」と聞くと「黙ってて!」と、ピシャリ。  正男に言ったのか独り言なのか「まず、セビジャーナスね」と、頷いている。あくびをかみ殺す正男だったが、ソロで現れたダンサーが、床をタンタンと踏みならした。腰を前後左右に振りながら、手の指をくねくねと回して踊る。「うんうん」と頷く沙織、しかし正男にはなんの感動もない。  舞台の両袖から、二人ずつのダンサーがショーに加わった。手を叩き合いながら、床を踏みならして踊り合う。互いに向き合ったダンサーたち、両手を高く上げてクルリクルリと回り合う。よく見ると左右対称の踊りになっている。  そして向かい入れられるような形で、中央に進み出たスターダンサー。五人が一斉にスカートの裾をひるがえしながら床を踏み鳴らす。白い足に釘付けになった正男の視線の先に、日本人ダンサーを見つけた。栄子だった。  素っ頓狂に「おい、日本人じゃないか?」と叫ぶ正男を、信じられないといった表情で「静かにして! 恥ずかしいでしょ」と、沙織がたしなめた。周囲もまた、眉をひそめている。頭を下げる沙織に対し、どこ吹く風とばかりにしれっとしている正男だった。パンフレットを見て「松尾栄子か、友情出演?」と声に出す。退屈さを紛らわす為なのだが、沙織には嫌がらせに思える。「声にしないで!」と、苛立つ沙織だった。
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