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その日は会社の忘年会だった。滅多に来ない片町の繁華街で、酔っ払った俺はバス停に向かって歩いていた。
路地を曲がった時だった。
そこに、高岡さんが、いた。男と二人で。
一瞬で酔いが覚めた。
「長坂さん……!」
彼女は呆然と立ち尽くしていた。隣の男は、酔っているのか赤ら顔で、
「なに? 僕の彼女に、なんか用?」
そう言って、彼女を抱き寄せる。
俺は無言で踵を返し、走り出した。その背中を彼女の叫びが追いかける。
「待って! 長坂さん! 違うの! この人は取引先の……」
……。
まったく、浮気がバレたときの女のセリフって、法律で決まってるんだろうか。まるで判で押したみたいに同じだ。
だけど。
奇妙なことに、俺は安心していた。
やはり彼女は俺を裏切っていた。でもこれで、またいつか裏切られるかもしれない、という不安から、俺は解放されたのだ。
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