不可逆過程

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「それに、あなた……まだ彼女と手をつないだこともないんでしょ?  だったら、あなたも胸を張って『彼氏』って言える立場でもないような気がするんだけど……どうかしら?」 「う……」  俺はうつむいてしまう。桜田さんの言うとおりだ。よく考えれば、俺は確かに高岡さんの彼氏……と言えるほどのことはしていない。だから、彼女のことを責める権利は……なかったのかも…… 「でもね」そこで桜田さんは、少し申し訳なさそうな顔になる。「やっぱり、高岡さんはそんなあなたが好きなのよ。彼女はね、『長坂さんの過去を考えたらそうなるのも仕方が無い』って言ってた。だから、時間をかけてゆっくり気持ちを育てていこう、と思ってたんだって。それなのに……わたしが余計なことをしたせいで……本当に、ごめんなさい」  桜田さんが再び頭を下げる。  ……え? ちょっと待てよ? 「俺の……過去?」  そう。  俺は、高岡さんに自分の過去の恋愛について話したことは一度も無い。思い出すのも嫌だったからだ。 「……!」  桜田さんが、しまった、と言う顔つきになる。 「どういうことですか? 何で彼女が俺の過去を知っているんですか?」  俺が詰め寄ると、桜田さんは観念したようにうなだれる。 「ごめんなさい……彼女から口止めされてたのに……でも、しょうが無いわね。これから話すことは、信じられないかもしれないけど全て事実よ」  そう前置きして、桜田さんは話し出す。 「あなたの元彼女は、清水沙智だったわよね」  ……!  その通りだ……何でこの人が、その名前を…… 「清水沙智の浮気相手にはね、婚約者がいたのよ。その婚約者が……高岡さんだったの」 「!」  俺は言葉を失う。  ---
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