不可逆過程

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「高岡さんは興信所を使って、婚約者の浮気相手……清水沙智のことも徹底的に調べ上げた。もちろん、その人に彼氏がいたことも、ね。でもその時点では、彼女はあなたの名前しか知らなかった。だけど……あなたは医王山で、彼女を助けたんだってね。彼女はね、あの時、婚約破棄が成立したばかりで抜け殻のようになっていたの。このまま山の中で死んでしまってもいい、とすら思っていたらしい」  ああ。それであの時、訳アリ臭がぷんぷんとしてたのか。 「だけど彼女はあなたに助けられた。でも名前は分からなかった。どうしてもお礼がしたかった彼女は興信所に頼んでナンバーから車の所有者を調べさせたの。もう馴染みだから格安でね。そして……それが例の清水沙智の彼氏だと分かった時、彼女は驚きながらも運命的なものを感じたらしいわ。それで、どうしても会いたくてあなたのところに押しかけたの。そこから先は、あなたの知っている通りよ」  ……。 「『同じ傷を抱えたもの同士だから、私はあの人のことが分かってあげられるし、あの人も私のことを分かってくれる。だから、あの人が私にとってベストのパートナーだった。だけど……もうどうにもならない』って、彼女は泣いてたわ。ね、長坂さん。彼女はあなたを裏切ったりしてなんかない。全て誤解なの。悪いのは全てこのわたし……だから、できればもう一度彼女と……やり直してもらえないでしょうか。この通りです」  そう言って、桜田さんはまたも深々と頭を下げた。  ---
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