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数時間後。
俺は自宅のベッドに転がり、今日の出来事を反芻していた。
桜田さんには「少し考えさせてください」と言って引き取ってもらったが、正直、どうしたらいいのか、よく分からない。
一応SNSで検索して、例の御曹司と桜田さんの素性は確認した。名刺の通りだった。となると、どうも俺が誤解しているのは本当のようだ。高岡さんが上司まで使ってこれだけ手の込んだでっち上げをするとも思えない。
しかし……
彼女とやり直す、となると、また裏切られる不安に常にさいなまれることになる。それに、彼女は俺の過去を知っていることを隠していた。ある意味俺を騙していたのだ。そんな彼女をまた信じることができるのか?
だけど。
目を閉じると、彼女の笑顔が浮かんでくる。もう一度会いたい。そう思っている自分に気づく。
……。
結局、凍り付いていたはずの俺の心は、彼女のぬくもりによって随分解かされてしまっていたらしい。そして、氷が解ける過程はエントロピーが増大する方向であり、不可逆だ。
そう。一度ぬくもりを知ってしまったら、知らなかった昔には戻れない。
気がつくと俺は、スマホを取りだして電話帳で彼女の名前を検索すると、通話ボタンを押していた。
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