不可逆過程

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 〇℃の空気は三〇℃のそれに比べて、密度が一〇パーセント濃い。だから、冬の空気は夏のそれよりも、堅くてマッシブだ。  冬生まれだから、というわけでもないのだろうが、俺は昔から冬の空気が好きだった。肌を刺すような冷気に包まれると、ピリッと身体が引き締まる。  そんな空気と美しい雪景色を求めて、俺は家から車で十数分の医王山(いおうぜん)に向かっていた。新型ジムニーに乗り換えて数ヶ月後の日曜日。こいつが真価を発揮するような場所に来るのは、これが初めてだ。  周りに集落も無いような細い山道は、当然除雪なんかされていない。しかし、俺の目の前の道路には、既に一つ車の轍ができていた。こんな、何もない寒いだけの場所にわざわざ来るなんて、物好きもいいところだ。人のことは言えないが。  ようやく俺は轍の主に追いついた。驚いたことに、ラパンだった。だが、どうやら立ち往生(スタック)しているようだ。後ろから見てもタイヤが空回りしているのが分かる。そりゃそうだろう。むしろこんな車でここまで来られたのが奇跡的なくらいだ。
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