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その一言で俺は何となく察する。こいつは訳アリだ。関わらない方がいい。
「そうですか。まあでも、あんまりムチャはしないようにね。それじゃ」
「あ、待ってください! せめてお名前だけでも……」
「いいって! お礼とか迷惑だからさ! じゃあね!」
言い捨てて俺は車を発進させる。ルームミラーを見ると、俺の方に向かって深々と頭を下げている彼女が、みるみる小さくなっていった。
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それからほぼ一週間後の月曜。
久々に残業が早く終わり、二〇時過ぎに駐車場に向かっていた俺は、車の前にポツンと人影があるのに気づきギョッとする。
な、なんだ……?
恐る恐る近づくと、その人影がいきなり俺に向かってお辞儀をする。
「こんばんは」
女の声だった。
「あの、長坂健太さん、ですよね?」
「え……?」
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彼女は、高岡千晶、と名乗った。年齢は俺よりも三つ下。一週間前に俺が医王山でレスキューした相手だった。
名刺を見ると、某電力系インフラ企業のR&D事業部主任、とある。俺もインフラエンジニアだが、コンピュータネットワークのそれだから畑違いだ。
何で俺の名前が分かったのかというと、わざわざ俺の車のナンバーから興信所を使って調べたのだそうだ。マジかよ……
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