不可逆過程

4/16
前へ
/16ページ
次へ
 その一言で俺は何となく察する。こいつは訳アリだ。関わらない方がいい。 「そうですか。まあでも、あんまりムチャはしないようにね。それじゃ」 「あ、待ってください! せめてお名前だけでも……」 「いいって! お礼とか迷惑だからさ! じゃあね!」  言い捨てて俺は車を発進させる。ルームミラーを見ると、俺の方に向かって深々と頭を下げている彼女が、みるみる小さくなっていった。  ---  それからほぼ一週間後の月曜。  久々に残業が早く終わり、二〇時過ぎに駐車場に向かっていた俺は、車の前にポツンと人影があるのに気づきギョッとする。  な、なんだ……?  恐る恐る近づくと、その人影がいきなり俺に向かってお辞儀をする。 「こんばんは」  女の声だった。 「あの、長坂健太さん、ですよね?」 「え……?」  ---  彼女は、高岡千晶、と名乗った。年齢は俺よりも三つ下。一週間前に俺が医王山でレスキューした相手だった。  名刺を見ると、某電力系インフラ企業のR&D事業部主任、とある。俺もインフラエンジニアだが、コンピュータネットワークのそれだから畑違いだ。  何で俺の名前が分かったのかというと、わざわざ俺の車のナンバーから興信所を使って調べたのだそうだ。マジかよ……
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加