平々凡々

「それが、先生が今まで生きていて感じたもの。普通を探れば探るほど、普通って、どんどん離れていくようだった。普通になりたいのに、普通って人によって形が違いすぎる。常識っていうけど、それすら、誰かが適当に決めた自分のルールが大半だよ。だからきっと、みんながみんな、普通で普通じゃないのが、本当なんだろうなって、先生は思う。

　もちろん、えみるちゃんは私の考えになんて振り回されなくてもいいんだよ。何か違う結論が出たら、それならそれでいいと思う。でも、もしも普通に縛られて苦しいなら、普通にならなくてはいけないと考えているなら、先生の言っていること、たまに思い出してみてほしい」

　今まで私が考えてきたこと、全部を覆すような先生の言葉は、私にはちょっと難しすぎた。……でも、私の問いかけに誰も彼も答えられなかったわけは、きっとこういう理由なんだろうな、なんて思った。

「大丈夫、好きなものは好きでいいんだよ。だってそれが、えみるちゃんの普通なんだから。ただ、誰かの好きなものを苦手に思ってしまう誰かはいるかもしれないから、ちょっとだけ、気をつけてみよう。私も自分が好きなものが苦手な人の感覚、なかなか理解できなくて、昔はとっても苦労したんだよ」

「先生の好きなものって……」

　女の人の格好だ。そんなの個人の自由なのに、苦手な人なんているんだと驚いた。

「うん、スカートとか、ね。母親なんか昔っから、どうして女の子みたいなものが好きなんだって泣いてばかりいたよ」

　……私のものとは、またちょっと違う話だ。でもどっちも、とてもつらい。