平々凡々

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「勉強はどう?」  授業に出ない代わりに、お母さんが買ってくれたテキストを黙々と解いていると、保健室の先生が声をかけてきた。 「いつも通りです」 「わからないところはない?」 「はい、今のところは」 「そう、じゃあ困ったら相談してね」 「はい」 「これは、よく頑張ってるご褒美。他の子や他の先生には秘密」  先生はポケットから透明なビニールにくるまれたお菓子を取り出す。たぶんチョコレート味のクッキーだ。先生はいつも、私に秘密をくれる。 「ありがとうございます」 「いえいえ、どういたしまして。……ところで、休憩にしない?」 「……まだ、始めて二十分くらいですよ?」 「先生はお仕事始めてからけっこう経ってるもの。いつ誰が来るかわからないし、ね」 「……わかりました。じゃあ、休憩しましょう」  鉛筆を置いて、テキストを閉じる。それが私の休憩の合図。先生は近くにぽつんと置いてあった丸椅子を手に取ると、それを私の机の正面に置いて、そこに座る。  先生は私の正面に座っても、決して顔まで私の方を向かない。私に横顔を向けて、そうして私の机に肘をつく。それもまた、私と先生の秘密の一つ。 「……先生と出会って、もうちょっとで一年ですね」     
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