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「だから、その、小学校二年生のときに、同じクラスの仲がいい子と帰ってる途中、蛇がいたんです。すごくかわいい、このくらいの」
私は自分の手を肩幅よりもずっと小さく広げてみせる。
「ちっちゃい子です」
「赤ちゃん?」
「たぶん」
「可愛い」
……先生は、本当にすごい。それは、私が一番欲しい言葉そのものだった。
「はい。……はい。すごく、すごく可愛い子だって思ったんです。その子、犬とか、猫とか、好きだから、その日も、知らない人のおうちのお庭に放されていた大きな犬に夢中だったから、私、きっと蛇も好きだって思って、その蛇の赤ちゃんを捕まえたんです。きっと喜んでくれるって思って、その子の名前を呼びながら、その子の顔の近くに蛇の赤ちゃんを差し出して、そしたらその子、見たことない怯えた顔になって、悲鳴を上げて、泣き出して、それから走って逃げちゃいました。……その子、蛇、苦手だったんです」
それが、私が、私をちょっとおかしいのだと自覚してしまった瞬間だった。
「それは、つらかったね」
「…………」
下唇をちょっと噛む。奥歯を噛みしめた。私はあの子を泣かせてしまった。だから、自分がつらいなんて考えちゃ駄目だって思ってきた。
でも、本当の本当は、つらかった。
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