ぬくもり

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木村さんで調子づいたのか、彼女は今度は進んで俺に抱きついた。 ぎゅっと不安を振り払うように抱きしめてくるから、とりあえず「勇気」という言葉を頭の中で連呼した。 彼女は堪えきれずに笑いだした。 そして女子高生はちょっとだけ緊張していたようだが、笑顔のまま会社を出て行った。 とりあえず、上司が怒鳴り込んでくる前に状況が収まって良かった。 「それで、あのお嬢さんとはどういう関係なんですか?」 木村さんが獲物を狙うハンターの目で俺を見る。 俺にも彼女との関係を何と行ったらよいか、全くわからない。 「ご想像におまかせします」 面倒になってそう伝えたら、後々、昔別れた恋人が実は身籠っていて、知らない間に産まれていた娘、というメロドラマが社内で出来上がっていた。 陽気な昼下がり。 久しぶりに戻ってきた平穏なオアシスを、目をつぶり、煙草をくゆらせながら満喫する。 「お・じ・さん!」 オアシスが終わる音がする。 目を開ければ、そこには女子高生とちょっと後ろにその母親。あの男はいない。 姿勢を正して、煙草を携帯灰皿に捨てる。 「もう、来ないもんだと思ったよ」 「うん。もうこの時間に来るのはやめるよ。でも、きちんとお礼言わなきゃと思って」 「まぁ、上手く収まったようで良かった」 「お母さん、男を見る目がないから、これからは私がしっかりするんだ!おじさんの事も紹介しておいたから」 「木村さん並みのお節介だな」 木村さんの名前に女子高生が愉快に笑う。 「それじゃ、またね、お父さん」 「だから、冗談に聞こえねぇんだよ」 女子高生が母親と去っていく後ろ姿を眺めながら、俺は新しい煙草に火をつけた。 END
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