4人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
木村さんで調子づいたのか、彼女は今度は進んで俺に抱きついた。
ぎゅっと不安を振り払うように抱きしめてくるから、とりあえず「勇気」という言葉を頭の中で連呼した。
彼女は堪えきれずに笑いだした。
そして女子高生はちょっとだけ緊張していたようだが、笑顔のまま会社を出て行った。
とりあえず、上司が怒鳴り込んでくる前に状況が収まって良かった。
「それで、あのお嬢さんとはどういう関係なんですか?」
木村さんが獲物を狙うハンターの目で俺を見る。
俺にも彼女との関係を何と行ったらよいか、全くわからない。
「ご想像におまかせします」
面倒になってそう伝えたら、後々、昔別れた恋人が実は身籠っていて、知らない間に産まれていた娘、というメロドラマが社内で出来上がっていた。
陽気な昼下がり。
久しぶりに戻ってきた平穏なオアシスを、目をつぶり、煙草をくゆらせながら満喫する。
「お・じ・さん!」
オアシスが終わる音がする。
目を開ければ、そこには女子高生とちょっと後ろにその母親。あの男はいない。
姿勢を正して、煙草を携帯灰皿に捨てる。
「もう、来ないもんだと思ったよ」
「うん。もうこの時間に来るのはやめるよ。でも、きちんとお礼言わなきゃと思って」
「まぁ、上手く収まったようで良かった」
「お母さん、男を見る目がないから、これからは私がしっかりするんだ!おじさんの事も紹介しておいたから」
「木村さん並みのお節介だな」
木村さんの名前に女子高生が愉快に笑う。
「それじゃ、またね、お父さん」
「だから、冗談に聞こえねぇんだよ」
女子高生が母親と去っていく後ろ姿を眺めながら、俺は新しい煙草に火をつけた。
END
最初のコメントを投稿しよう!