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彼女が顔を上げて目があったとき、ヤバイと思った。
俺の脳裏には、手錠をかけられて暗い独房に入れられる自分と、鉄パイプを持った少年たちに囲まれてお金を巻き上げられる自分が交互に浮かぶ。
だが、彼女は明るく笑った。声を上げて、友だちと馬鹿笑いするかのように楽しそうに笑う。
その笑い声には、援助交際待ちやオヤジ狩り的な闇が一切含まれていない事がわかって、俺の気は緩んだ。
「ありがとう。ちょっと寒くなってきたなって思ってたんだ」
「だったら帰れよ」
人見知りなく、無邪気に話しかけてきた彼女に、俺も以前からの知り合いのように言葉を返してしまう。
「帰れたら、帰ってるよ」
「電車賃ないとか?」
「ここから徒歩5分圏内」
「羨ましいな。じゃ鍵がない……」
俺が言い終わる前に彼女は鍵を見せびらかすように取り出す。
「だったら帰れよ……」
「やだ」
「やだってなぁ……」
「ねぇ、おじさん、少し一緒に喋ろうよ!」
正直、少しの余裕も俺にはなかった。終電が差し迫っている。
だが、彼女は俺が断る前に先手を打つ。
「このまま私を置いていって、私に何かあったら、おじさん、真っ先に疑われるよ」
と、足に掛けただけだったはずの俺のコートをガッチリと着込んでニコニコ笑う。
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