偽りのキスー3

37/39
前へ
/39ページ
次へ
いったいどのぐらいの時間だったのだろう。 やがて彼が私の唇を放した。 夢から覚めたように瞼を開け、まだ間近にある彼の目を見つめた。 漆黒の目はさらに濃く深く見えるほど、強い感情をたたえている。 怒り、嫉妬、労わり? それとも、渇望……? まだ現実に完全に戻りきらない頭で、私は彼の目に浮かぶ複雑な何かを捉えようとした。 でも和樹さんが私の身体を放して一歩下がった時、彼の目に浮かんでいたものは水面の下に深く沈むように姿を消し、静かで冷ややかないつもの表情に戻っていた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加