偽りのキスー3

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隣の控室のドアはわずかに隙間が開いていた。 中からは低い話し声が聞こえる。 「ああ……ああ。わかってる」 和樹さん一人の声しか聞こえないので、誰かと電話しているらしい。 立ち聞きにならないよう、少しドアから身を引いてしばらく待ったあと、静かになったのでそっと覗いてみた。 和樹さんは通話を終えていて、こちらに横顔を向けていた。 長身の彼に黒いタキシードはとても似合っている。 涼やかな横顔は少し顎を上げた伏し目で、壁に掛けられた鏡を見ながら襟元のタイを直していた。
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