偽りのキスー3

38/39
前へ
/39ページ
次へ
止まっていた時の流れが私の周囲で再び動き始める。 結婚成立が宣言されたあと、新郎新婦の退場が告げられた。 半歩前に立つ彼が浮かせた右肘に恐る恐る左手を預け、参列者に向かって顔を上げた。 新婦側の席の中ほどにはハンカチを握りしめながら私を見守る理子の顏が見えた。 その前列には野々花先輩もいる。 先輩の笑顔が強張っているように見えるのは、たぶん私の緊張ぶりにヒヤヒヤしているのだろう。 笑わなきゃ……。 チャペルに響き始めたパイプオルガンの音色と拍手の中、私はようやく微笑みを浮かべて彼と共に進み始めた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加