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「新婚旅行なんかな行かなくたって関係ないよね。新婚さんだもん。どこにいても幸せでしょ?」
「う……うん」
私が曖昧にしか反応できずにいると、理子は焦れったそうに抗議してきた。
「もう、結衣ったら幸せなくせに勿体ぶるんだから」
理子には本当のことを打ち明けるつもりだ。
でも、何をどの程度、どんなタイミングで切り出すのかが難しい。
頭の中で説明を組み立てようとしている私の前で、そんなこととは知らない理子が頬杖をついて勝手に妄想を膨らませ始めた。
「いいなぁ……。結衣が人妻になっちゃった」
「人妻……」
水のグラスに口をつけようとしていた私は、思わず吹き出して零しそうになった。
「だって、ヒトヅマじゃん」
「いや……確かに式は挙げたけど……」
「いいなあ、宮瀬本部長との熱い夜」
「やめてってば」
やっぱりこんなことを打ち明けるのは、はしたないことだろうか?
この一週間、頭を占めている問題を口にしたくても、これまでの父の箝口令の後遺症なのか、すんなり口から出てこない。
理子の冷やかしを受け流しながら、私は一週間前の夜を思い起こしていた。
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