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「これも明日のランチかな……」
キッチンでコーヒーの豆を挽きながら、一人呟いた。
私が食事の準備をしていることは、冷蔵庫を開けたときに彼だって気づいているはずだ。
なのにそのことに一言もなく、早く帰宅するわけでもないなんて、これでは取りつく島もない。
コーヒーメーカーの音を聞きながら、壁に寄り掛かってぼんやり考える。
勇気を出して、〝たまには家でご飯を食べてください〟って言わなきゃ。
でも……。
社内に婚約を公表した夜の、彼の怒った顔がふと浮かんだ。
あの時はいろんなことがありすぎて感覚が麻痺していたけれど、彼の言葉の数々は強烈で、私に身動きを取れなくしていた。
〝親の命令なら相手も交換できると?〟
この十日間、接点がほとんどない中で考えつく限り和樹さんに尽くそうとしているけれど、彼はそれを受け取ろうとしない。
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