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「でも、たまには大事にしてくれるんでしょ?」
「はい」
野々花先輩がじっと私の顔を見つめる。
たぶん私は上手に嘘をつけていない。
「大丈夫よ。私が早く帰るよう仕向けてみるし」
「ありがとうございます」
自発的なものではなく、他人に仕向けられたから早く帰ってくる、というのでは本質的な解決にはならない。
でも今の私は藁にもすがりたいほど悩みと孤独が深かった。
「あと、本部長の行先とかわかったら教えるから。きっと心配要らないわよ。大事な夏目財閥のお嬢様だもの、裏切るようなことは絶対にしないわよ」
色々と協力を約束してくれた野々花先輩と別れ、一人帰途につく。
〝大事な夏目財閥のお嬢様だもの〟
先輩の何気ない言葉は、実は私の存在価値の本当の姿を言い当てている。
この夜空の向こう、広島に和樹さんはいる。
無性に会いたかった。
上辺だけの優しさしかくれなくても、会いたかった。
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