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帰り道、ハンドルを握る和樹さんをそっと窺う。
あのあと、彼と父がどんな会話をしたのかは知らない。
彼の横顔からは何も読み取れないけれど、今回の夏目家訪問が彼にとって楽しい行事でないことだけは確かだ。
「結衣さんはカウンセラー志望だったんですか?」
ずっと黙っていた和樹さんが突然口を開いた。
「えっ? えーと、カウンセラーというか……」
不意を突かれたので、答える前に少し考える。
「大学在学中に、将来は社会福祉士の資格を取りたいなと思ったことがあったんですけど、父に反対されて諦めてしまいました」
就職先は宮瀬だと最初から定められていた。
福祉事務所に進む選択肢など父が許すはずもなく、進路を決める四年生の頃にはすっかり諦めていた。
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