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「どうしたの? 結衣ちゃん、泣かないで」
「ごめんなさい、大丈夫です」
急いでバッグからハンカチを取り出し、うつむいて目を押さえながら無理に笑った。
「ずっと慌ただしかったので、つい気が緩んでしまいました」
「きっといろいろ大変だったのね」
先輩が労わるように言葉をかけてくれる。
「本部長はポーカーフェイスだから、裏でどれだけゴタゴタしていようとさっぱりわからないわ。いつも同じ調子よ。優しくて紳士で。お面被ってるみたいよ」
私を笑わせようと明るく冗談を言う先輩に合わせ、私も笑う。
「常務は大丈夫なの? 若いのに無期の病気療養って、まさか重病じゃないわよね? まさか、ガンとか不治の病とか……」
「……ガンとかそういうのじゃないです」
「じゃあ元気なのね?」
「……はい。たぶん」
身内だけに〝よく知りません〟とうごまかしもきかない。
認めるしかなかった。
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