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「よかった」
先輩はそう答えたあと、やはり怪訝そうな顔をした。
「なら、どうして?」
「私にもわかりません」
嘘は徐々に崩れていくもの。
もうお手上げだった。
「わからないって、どういうこと?」
「私にわかるのは、お元気で、どこかにいらっしゃるということだけです。こうなった理由は聞いていません」
はっきりと明言はしていないけれど〝こうなった〟というのが婚約破棄を示していることは明白だ。
「そうだったの……。辛かったわね」
「あの時、言えなくてごめんなさい。事情があって、必死だったもので……」
「まだ常務のことが忘れられないんでしょう?」
「いいえ、それはないです」
私ははっきりと否定した。
どんなに和樹さんが私を避けていても、私サイドから誤解を受けるような不注意な発言はできない。
でも、それを聞いた先輩はなぜか微妙な表情を浮かべた。
これまで私には秘密が多かったから、信用できないのかもしれない。
「本当です。常務のことはまったく引きずっていません。大切なのは和樹さんです」
「そっか。それならよかったわ」
野々花先輩は少し素っ気なく微笑んだ。
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