籠の鳥の孤独ー2

5/26
前へ
/26ページ
次へ
「結衣さんはしっかりやっていますよ」 その時、私たちのやりとりを黙って聞いていた和樹さんが口を挟んだ。 「うちは歴史が浅いぶん、社風がフランクです。仕事の采配もフェアにやってくれていると思います」 ゆったりとした口調だったけれど、〝フランクでもフェアでもない〟夏目財閥に対する当てこすりが含まれている気がして、私は勝手に胸がすくような気分になった。 「和樹くんは寛大だからそう言ってくれているが、結衣。自覚は持つように」 父は苛立ったような表情を浮かべ、私に話の矛先を戻した。 「いくらうまくごまかせたといっても、宏樹くんが当初の婚約者だったことは陰の認識だろう。お前がいつまでも会社でグズグズしていると、宏樹くんの帰還を待っていると思われる」 まるで私が宏樹さんに未練を抱いているような言い方だし、こんな話を和樹さんの前でするのも失礼だ。 「家に専念するところを見せないと、和樹くんに恥をかかせることになるんだぞ」 父の目的はきっと私を説き伏せることだけではなく、和樹さんへのマウンティングではないかと思う。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

507人が本棚に入れています
本棚に追加