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「結衣さんはしっかりやっていますよ」
その時、私たちのやりとりを黙って聞いていた和樹さんが口を挟んだ。
「うちは歴史が浅いぶん、社風がフランクです。仕事の采配もフェアにやってくれていると思います」
ゆったりとした口調だったけれど、〝フランクでもフェアでもない〟夏目財閥に対する当てこすりが含まれている気がして、私は勝手に胸がすくような気分になった。
「和樹くんは寛大だからそう言ってくれているが、結衣。自覚は持つように」
父は苛立ったような表情を浮かべ、私に話の矛先を戻した。
「いくらうまくごまかせたといっても、宏樹くんが当初の婚約者だったことは陰の認識だろう。お前がいつまでも会社でグズグズしていると、宏樹くんの帰還を待っていると思われる」
まるで私が宏樹さんに未練を抱いているような言い方だし、こんな話を和樹さんの前でするのも失礼だ。
「家に専念するところを見せないと、和樹くんに恥をかかせることになるんだぞ」
父の目的はきっと私を説き伏せることだけではなく、和樹さんへのマウンティングではないかと思う。
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