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和樹さんの言葉にはいくつかの揶揄がある。
父が〝古い感覚〟であることと、結局は企業のトップに立つことなく〝消える〟こと。
経営企画室時代に見てきた印象では、和樹さんは柔和な態度の裏で緻密に計算する人だ。
新婚らしい仕草でうまく毒を隠したのだろう。
婚約公表の夜、宮瀬家で話し合いをもった時、和樹さんは私の父に対しても不快感をあらわにしていた。
彼は父の計算にまんまと乗せられる宮瀬社長に歯痒い思いをしていたようだった。
元々いい印象を持っていなかった父に対して、嫌悪が決定的になった出来事だと思う。
敵の娘という自分の立ち位置を自覚すると、置き去りにされた手が少しだけ孤独に感じられた。
「結衣、お昼の用意をするから手伝ってちょうだい」
「はい」
母に呼ばれ、この場を離れられることにほっとしつつ、リビングを出た。
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