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キッチンで作業中、母からは遠慮がちに子作りのことを切り出された。
「子供はそのうち、なんて言わずに、急ぎなさいね。こんなことを言うのは気が早いんだけど……。でもお父さんは気長に待っていないと思うわ。こんな状況の結婚だから」
「お父さんは自分のためでしょ? 私に離婚されたら格好悪いから」
珍しく反抗的な私に母は驚いて目を丸くしたあと、心配そうに声をひそめて聞いてきた。
「和樹くんとうまくいってないの?」
「そんなことないよ」
冷菜に添えるキュウリを細切りにしながら、表情を読まれないよう手元に集中しているふりをする。
「宏樹くんもいつかは帰ってくるでしょ? お父さんは心配なのよ。結衣が揺れるんじゃないかって……」
「だから子供を早くってこと? そんな理由、子供が可哀想だと思う」
この結婚を本物にしようにも触れてもらえない目下の悩みにダイレクトに踏み込まれ、母には申し訳ないけれど苛々してしまった。
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