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朝食のとき、彼が「ゆうべは早く帰れなくてすみません」と謝った時の顔を思い出し、少しにやけていたら、理子が目ざとく気づいた。
「いやだ結衣、思い出し笑いしてる」
「いやいや、笑ってない」
「笑ってたよ! 超いやらしい顏で毎日ニヤニヤしてるって、私が噂広めといてあげるよ」
「いやだ、やめて」
「膝に乗って大福食べたりしてたんじゃないの?」
「してないよ」
理子のお喋りを聞きながら、もう認めてしまうだけになるまで育った、疼くような感情に手を当てる。
近づきたい、触れたい、求められたい。
甘く苦しく、身が捩れるほど焦がれる心。
彼と再会した日からずっと私の胸をざわつかせ戸惑わせてきた名前のわからない感情は、その時々で色と形を変えながら、いつのまにか私の中で否定しようのない鮮やかさに色づいていた。
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