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『気になることがあってね。彼、夏目物産の夏目社長とコンタクト取ってるのよ。知ってた?』
「いいえ」
夏目物産といえば財閥の頂点にある企業で、夏目社長はうちの父の従弟に当たる人物だ。
父は夏目社長より年長でキャリアも先輩格でありながら、夏目社長に仕える位置に据えられた。
つまり、夏目社長は父よりもはるかに権力がある。
『結衣ちゃんのお父さんに頼らず自力で開拓してるみたいよ。さすがよね』
母が言っていたことをふと思い出した。
〝お父さんもじきにただの人になるんだから〟
戦場で父はだんだんと用済みになっていくということなのだろうか。
寂しくもあり、切なくもあり、それでいいのだとどこかで納得もしている。
いつかは退かなければならないのだから。
でも父の退任の気配については、先輩に言う気にはならなかった。
単なる憶測だということだけでなく、何となく悔しかった。
親切にしてくれているというのに、我ながら料簡が狭い。
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