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「勉強、勉強!」
自分に号令をかけ、猛然と問題を解き始める。
それでも時計が気になった。
九時より前に退社したなら、もうとっくに帰宅しているはずなのに……。
かなり時間が過ぎてからようやく玄関の鍵の音が聞こえると、私は弾かれたように玄関に急いだ。
「ただいま」
ドアを閉めた彼が私に微笑みかける。
和樹さんの顏立ちは、こんなに夜遅く疲れて帰ってきても変わらず涼し気に見える。
それを見ると、嫌なことも何もかも、取るに足らないことに思えてしまうのだ。
私は今のこの幸せを壊したくない。
ただ目を閉じて彼を愛するだけだ。
「おかえりなさい」
和樹さんに微笑み返した私は、野々花先輩に言われたことを胸の奥深くに捨てたのだった。
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