目隠しの愛ー3

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那須は茶臼岳を仰ぐ高原地帯で、都内から車で数時間の距離にある。 古くから別荘が集まる地域で夏目家もここに別荘を所有しており、私が成人した時に贈与を受けた。 我が家には軽井沢と那須と、二か所の別荘があった。 贈与の際に、父からどちらがいいかと聞かれた時、私は少し迷ってから那須を選んだ。 軽井沢の別荘の方が新しく、設備も充実しているのだけど、那須で過ごした幼少期の思い出が捨てがたかった。 「久しぶりだな」 那須方面に向かう東北自動車道で、ハンドルを握る和樹さんが懐かしむように言った。 「最後に行ったのは僕が小学生の頃だったかもしれない」 「私も十年ぶりぐらいです」 「そんなに来てないの? 所有者なのに」 私は苦笑して答えた。 「だって、ペーパードライバーだから思い立っても自分では来られないんです」 「なるほど」 人が住まわなくても家や庭木の手入れは要る。 でも、別荘の管理は専門の会社に委託しているので、通わなくても維持はできるのだ。
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