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不都合な現実を見ないよう目を瞑って彼を愛する私は、時折聞こえてくる外の物音に心を乱される。
彼の恋人のことも、彼が夏目の人脈を変えようとしていることも、私にそれを隠していることも、せめて今だけは思い出したくないのに。
オレンジ色の太陽の欠片が木立の向こうに沈むと、空はほのかな朱を残して藍色の帳がおりてくる。
何もかもを覆い隠す夜の訪れだ。
「入ろうか」
彼の言葉で、止めていた息をそっと吐き、夜空のように深い色の目を見上げて微笑んだ。
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