第1章

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「コーヒーでも飲むか」  泰輔がすぐ傍にあった外資系のコーヒーチェーン店を指差した。俺はそれに頷いて見せたが、内心少しショックだった。飲み足りないわけではない。ただじっくり語り合いたいのに、泰輔がせいぜい終電までしか営業していないであろう店舗を選んだことに、そんなに長い時間話す気がないのだと知れて。今自分の要望が通らないことを残念に思うのは、それだけいつも、泰輔が自分の希望を察して、優先して、なんでも応えてくれていたからだ。 「混んでるな」  店内を見回して泰輔が呟く。 「佑、席取っておいてくれ。買ってくるから」  それに「わかった」と返事をして、空席を探した。ソファ席はすべて埋まっていたが、窓際のカウンター席が二つ空いているのを見つけて座った。時計を見ると、終電まではあと一時間程だった。そのことにがっかりする。 「カフェラテでよかったか?」  数分待っていると、トレーを手にした泰輔が現れる。 「ありがと」  横に並んで街の雑踏を眺めながら、互いにコーヒーを啜る。 「楽しかったな、今日」 「ああ」 「草壁、うまくいけばいいけど」  そうだな、と泰輔が静かに頷く。  残された時間がもうあまりないのだと思うと、何から話せばいいのかわからなくて、焦ったような気持ちになる。
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