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泰輔が俺の問いに答えようとした時、エレベーターが降りてくる電子音がする。
「とりあえず駅向かうか」
三次会を断ってきているのに、まだこの場にいるのははばかられて、急ぎ足でビルを出る。泰輔は俺についてきた。
繁華街とあってか、昨夜よりさらに街の灯りがまぶしく感じる。どこかの店からジングルベルが聞こえてきた。今年のクリスマスは平日だから、もしかするとこの週末にイベントを楽しむ人も多いのかもしれない。実際、通りがかった洋菓子店ではクリスマスケーキを販売していた。
この国ではキリストに興味はなくても、このイベントが大好きな人間は大勢いるのだろう。恋人、友達、家族。それぞれの大切な相手と共に過ごし、ケーキやチキンを頬張って、プレゼントを贈りあう日。
「佑輝」
駅の方向へしばらく歩いていると、遠慮がちな泰輔の声がした。立ち止まって振り向くと、泰輔は何か言いたそうな顔で俺を見ていた。
待っていても泰輔はなかなか切り出さないので、代わりに俺が口を開く。
「なあ、見せてよ」
「え?」
「噂の億ション。俺も見たいなって」
冗談めかして言ったら、泰輔は驚いたように大きく目を見開いた。
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