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「味、薄くない?」
「ちょうどいい」
泰輔はお手本のような姿勢と箸使いで黙々と食べる。食事のメニューは同じだけど、食べる量は泰輔の方が1.5倍くらい多い。食欲の問題ではなく、体積と筋肉量が違うので必要な量が異なる。
「今日どこだっけ、相手」
「アロウズ」
「あー、葉山絶好調だよなぁ、今」
髭がトレードマークの左腕投手を思い浮かべながら、納豆を掻き混ぜた。
「向こう着いたら観るな、中継」
「ああ」
混ぜた納豆をご飯に載せて掻き込む。味噌汁は少し味が薄い気もするけど、きんぴらごぼうの出来は我ながらなかなかだと思った。
「あ、やば。もうこんな時間」
「食器片づけておく」
「ごめん、サンキュー」
礼を言って、慌てて出かける支度をした。
白シャツの上にカーディガンを羽織って、リュックを引っ張り上げる。玄関に向かうと、泰輔は律儀に見送りに来た。
「気を付けて」
「ん、泰輔は試合頑張れよ」
ランニングシューズに足を突っ込みながら手を軽く上げて、玄関の扉をくぐった。
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