【番外編】光射す

3/28
前へ
/233ページ
次へ
「味、薄くない?」 「ちょうどいい」  泰輔はお手本のような姿勢と箸使いで黙々と食べる。食事のメニューは同じだけど、食べる量は泰輔の方が1.5倍くらい多い。食欲の問題ではなく、体積と筋肉量が違うので必要な量が異なる。 「今日どこだっけ、相手」 「アロウズ」 「あー、葉山絶好調だよなぁ、今」  髭がトレードマークの左腕投手を思い浮かべながら、納豆を掻き混ぜた。 「向こう着いたら観るな、中継」 「ああ」  混ぜた納豆をご飯に載せて掻き込む。味噌汁は少し味が薄い気もするけど、きんぴらごぼうの出来は我ながらなかなかだと思った。 「あ、やば。もうこんな時間」 「食器片づけておく」 「ごめん、サンキュー」  礼を言って、慌てて出かける支度をした。  白シャツの上にカーディガンを羽織って、リュックを引っ張り上げる。玄関に向かうと、泰輔は律儀に見送りに来た。 「気を付けて」 「ん、泰輔は試合頑張れよ」  ランニングシューズに足を突っ込みながら手を軽く上げて、玄関の扉をくぐった。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

426人が本棚に入れています
本棚に追加