【番外編】光射す

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 黄緑色の満員電車に揺られるたび、都会に帰ってきたなと実感する。  四年ほど前、地方創生事業の一環で食と住居を得て田舎に引っ越したが、その移住はもとより期限付きだった。契約期間である三年が過ぎた時、その土地、そしてボランティアで監督を行っていたチームに愛着や未練があったから、申請をして一年延長した。だけどその猶予も切れたのが三カ月前。  今後の身の振り方を考えた時、複数の選択肢の中からその一つを選び取ったのは、泰輔の一言だった。 『傍にいてほしい』  ひどく緊張した声で告げられたその言葉は、ずっと自分の中で反響していた。  選択を泰輔に打ち明けたのは三カ月前、二月のことだった。 「俺さ、来年度から再進学しようと思ってて」  習慣になっていた月一の短い電話でのやり取りの最後に切り出した。 「学校に行くのか?」 「うん、トレーナーの専門」  四年の移住生活のさなかに見つけた、自分の中の新たな目標だった。  曲がりなりにも過去に本気でプロを目指していた身だから、練習やトレーニング方法について多少の知識は持っていた。だけど過去に常識だった方法が実は非効率的だったり、間違いだったなんてことはざらにあるし、現在は科学的なトレーニング法がどんどん研究されている。高校生を指導するなかでそれを勉強することは思いがけず楽しく、そして、真摯に励む選手たちの力になれることが嬉しいと感じた。  正直なところ監督には向いていないと感じたけど、選手の力を伸ばす手助けなら、本気で取り組んでみたいと思った。
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