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「具体的に仕事としてどうこうってのはまだこれからだけど、とりあえずトレーニングとか栄養学はちゃんと勉強しとこうかなって」
「そうか。佑輝は昔から勉強家だったからな」
「でさ、場所ちょっと迷ってたんだけど……そっち帰ることにした」
ギリギリまで関西の学校と迷って、結局都心の専門学校に願書を出した。面接試験だけなので、よっぽどのことがない限りは、手続きが済めば入学することになる。
ずいぶん長い間が空いて、「そうか」という返事が聞こえた。
「うん。でもしばらくはこっちと往復しながらになるかな」
「え?」
「あいつらのこと、途中で放り出したくないしさ」
監督を務める野球部は、結局新入部員が増えないまま、今年で最後の夏を迎える。
「だから夏までは、週末だけでも練習見に顔出すつもり。入学一年遅らせて、あいつらが卒業するまではこっち残るってのも考えたんだけど」
この土地は住む分には困らないが、独自で働き口を探そうとなるとやや難しい。それに年齢のことを考えると一年のロスは大きすぎる。
「あんまり実家には頼りたくなかったけど、しばらくは居候かな」
貯金はそこそこあるが、学費と夏まで行き来する交通費を考えると余裕はない。都会での一人暮らしの生活費を捻出する余裕ができるまで、実家に身を寄せるつもりだ。
「ってことだからさ、たまには泰輔の試合、生で観…」
「うちに来ればいい」
俺の言葉を遮るように泰輔が言った。
「家賃も食費も光熱費も要らない」
俺が何かを言う前に、「部屋も余ってる」と付け足される。
「もしも、佑輝が嫌じゃなければ……うちに住んでくれ」
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