【番外編】光射す

5/28
前へ
/233ページ
次へ
「具体的に仕事としてどうこうってのはまだこれからだけど、とりあえずトレーニングとか栄養学はちゃんと勉強しとこうかなって」 「そうか。佑輝は昔から勉強家だったからな」 「でさ、場所ちょっと迷ってたんだけど……そっち帰ることにした」  ギリギリまで関西の学校と迷って、結局都心の専門学校に願書を出した。面接試験だけなので、よっぽどのことがない限りは、手続きが済めば入学することになる。  ずいぶん長い間が空いて、「そうか」という返事が聞こえた。 「うん。でもしばらくはこっちと往復しながらになるかな」 「え?」 「あいつらのこと、途中で放り出したくないしさ」  監督を務める野球部は、結局新入部員が増えないまま、今年で最後の夏を迎える。 「だから夏までは、週末だけでも練習見に顔出すつもり。入学一年遅らせて、あいつらが卒業するまではこっち残るってのも考えたんだけど」  この土地は住む分には困らないが、独自で働き口を探そうとなるとやや難しい。それに年齢のことを考えると一年のロスは大きすぎる。 「あんまり実家には頼りたくなかったけど、しばらくは居候かな」  貯金はそこそこあるが、学費と夏まで行き来する交通費を考えると余裕はない。都会での一人暮らしの生活費を捻出する余裕ができるまで、実家に身を寄せるつもりだ。 「ってことだからさ、たまには泰輔の試合、生で観…」 「うちに来ればいい」  俺の言葉を遮るように泰輔が言った。 「家賃も食費も光熱費も要らない」  俺が何かを言う前に、「部屋も余ってる」と付け足される。 「もしも、佑輝が嫌じゃなければ……うちに住んでくれ」
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

426人が本棚に入れています
本棚に追加