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「明日一旦帰って学校とバイト行って、すぐこっち戻ってくる予定。夏休み入るしさ。ごめんな、メシ全然作れなくて」
「気にしなくていい」
宿泊先のコテージから、電話で勝利の報告をすると、泰輔は「おめでとう」と喜んでねぎらってくれた。
泰輔も今は遠征中で、自宅にはいない。ここしばらくの間は互いが交互に自宅にいない状態が続き、ずっと泰輔の顔を見ていない。
「泰輔、体調崩したりしてない?」
「ああ」
不振続きのプレーのことを話そうとした。励ました方がいいのか、触れない方がいいのか。答えがでなくて、沈黙が続く。
「俺も高校生たちを見習わないといけないな。もっと無心にプレーをしないと」
「泰輔」
どうやら俺がなんの話をしようとしていたのかは、言わずとも泰輔に伝わってしまったようだった。
「ナイター中継見るからな」
結局、『大丈夫』も『頑張れ』も口にせず、その一言だけを伝えた。
泰輔の「ああ」という返事を聞いてから「じゃあな」と電話を切ろうとした。
「佑輝」
端末を耳から離そうとした時、泰輔の声がした。
「なに? どうした」
尋ねても言葉は返ってこず、言いよどむような息の音だけがしていた。
再び呼びかけようとした時、「すまない、また今度にする」と早口の声がして、唐突に電話は切れた。
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