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帰りの飛行機がトラブルで遅れて、予定より一時間ほど遅く空港に降り立った。途中、スーパーで食材を買って、数日ぶりに泰輔の部屋に帰る。
数日分の着替えや、山程持たされたお土産が詰まったリュックから、鍵を捜し出すのに少し苦労する。
ようやく鍵を見つけて解錠し、扉を開いた。
「うわ、びっくりした」
部屋に入った瞬間、いつかと同じセリフを口にする。またもや泰輔が玄関先で立ち尽くしていた。
「だから、主人が返ってきた犬じゃないんだからさ。っていうか、なんで泰輔の方が驚いた顔してん……の」
言葉尻が不自然に途切れたのは、急に引き寄せられたからだ。その勢いで片方の肩に掛けていたリュックがずるりと滑って床に落ちた。セリフの最後の一音は泰輔の胸の中でくぐもった声になった。
言葉もなく痛いくらいに抱きしめられる。
突然の抱擁に驚いて、だけどどこかで納得した。引っかかっていた何かがほどけたような気分だった。
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