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「なあ、俺汗臭いと思うんだけど」
しばらくじっとしたあと、ぼそりと呟くと、密着した身体がびくりと揺れた。泰輔の身体からは嗅ぎなれたボディーソープの香りがしている。
「すまない。つい」
抱き寄せられた時と同じくらい、勢いよく身体が離れた。
「本当にすまない」
怯えた目で、何度も謝罪を繰り返す。俺に何かを言わせる隙を与えたくないみたいに、泰輔は矢継ぎ早に言葉を重ねた。
「もう二度としない。だから……」
言葉は途中で途切れて、懇願するように見つめてくる。
「だから何?」
続きを促すと、泰輔は視線を逸らした。数秒俺のシャツを睨むように見ていたが、意を決したように俺の目を見る。
「どこかに行かないでくれ」
強張った表情が、消え入りそうな声で言った。
俺は泰輔の視線を正面から受け止めたあと、小さく息を吐く。
「もしかしてさ、俺が出てったまま戻らなかったらどうしようとか、ずっと心配してたのか?」
この数カ月。泰輔はホーム、アウェーに関わらず、週末の試合で特に調子を落としている気がしていた。
図星だというように、泰輔は再び目を逸らすと、眉間にしわを寄せて唇を引き結ぶ。
そんな泰輔に苦笑をこぼした。
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