426人が本棚に入れています
本棚に追加
「とりあえず、上がっていい?」
床に落ちていたリュックを拾い上げると、泰輔はすぐに道を空けるように壁際に寄った。
廊下を進んでダイニングキッチンに向かうと、背後をついてくる気配がする。
イスにリュックを置いて、スーパーで買ってきた食材の入った袋を手に冷蔵庫へ向かった。泰輔はキッチンカウンターの横でじっと立っている。親に怒られた子供が、反省して落ち込んでいるみたいな態度が大きな身体には不似合いで、思わず笑ってしまいそうになる。
「あのさ、今後絶対この家から出ていかないなんて不確かなことは言わないけど、もしもそうなる時は必ず泰輔に話してからにするよ」
鶏むね肉のパックを冷蔵庫に押し込めてから、後ろを振り向く。 険しい表情の泰輔が、「わかった」と低い声で答えた。
最後に牛乳と豆乳をドア部分に収めて冷蔵庫を閉める。
ほんの一秒ほどだけ躊躇って、泰輔を見ないまま口を開いた。
「あとさ、別に嫌じゃないよ。泰輔に触られるの」
振り向くと、泰輔は目を大きく見開いていた。
「嫌なら、最初からここに住んでないし」
泰輔の肩が小さく跳ねた。恐るおそる一歩俺へと踏み出す。
真正面に立った泰輔はぎこちない動作で俺へと腕を伸ばした。頬に触れた指先は小刻みに震えていた。
それ以上は動かない泰輔の手にそっと触れる。瞬間、泰輔の表情が頼りなく歪んで、それを見ていると、しめつけられるみたいに胸が軋んだ。
最初のコメントを投稿しよう!