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「抱きしめても、いいか?」
「うん」
頷くと泰輔はまた一歩俺に近づいて、正面から強く抱きしめてきた。
少し痛いくらいの抱擁は不快ではなかった。むしろ逆で、力強さに安堵すら覚える。清潔なにおいのする体温が心地よかった。
その背に腕を回すと、密着した身体に緊張が走るのを感じる。それをやわらげたくて大きな背中を撫でたら、抱きしめる腕が強くなった。
「キスしてもいいか?」
耳元で聞こえた小さな声に返事をしようとしてやめた。
身体を引くと泰輔は腕をほどいて俺を解放する。不安そうな表情を浮かべた男の肩に手を載せて背伸びをすると、唇に触れるだけの軽いキスをした。
「……っ」
かかとをつけたと同時に、今度は泰輔が俺の腰に腕を回して引き寄せていた。熱を宿した瞳が迫ってくるのを、まぶたを閉じて受け入れた。
「ン……は」
繰り返し啄まれ、薄く唇を開くとすぐに舌が入ってくる。
静かな部屋に二人分の吐息と水音だけが聞こえていた。自分の鼓動が大きく鳴って、身体が熱い。久しぶりの濃厚な接触に足に力が入らなくなってきて、縋るように泰輔の首に腕を回した。
「佑、輝……」
口づけの合間に熱っぽく名前を呼ばれたら、尾てい骨のあたりがぞくっと震えた。
ようやく唇を離した時には、互いの息が上がっていた。
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