426人が本棚に入れています
本棚に追加
言葉で伝えて、身体を開いても、泰輔の態度は相変わらずだ。『絶対に嫌いにならないし、どこにもいかない』と言えば話は早いのかもしれないが、そんな不確かなことは言いたくないし、その言葉ではやっぱり泰輔も信じないかもしれない。
――気長に真摯に伝えてくしか方法はないか。
リーダーシップや決断力がある頼れる男のくせに、俺に関する事柄だとどうしていいかわからなくなる。そんな一面をすでによく知っているから。
仕方ないな、と長い息をついた。
「佑輝?」
俺は泰輔の身体を跨いで、反対側へ移動した。
「せめて腕こっちにしろよ。キャッチャーが大事な利き腕、下敷きにするなって」
泰輔の左手を取って、「肩おかしくなったらどうするんだよ」と叱った。
「はい、さっさと寝る」
ぽんと身体を押して促すと、泰輔は言われた通り横になる。俺はサイドランプを落として、自ら泰輔の腕の中に収まった。頭は枕に載せて、腕に負担が掛からないようにする。
半分眠りに入った頃、すぐ傍で息を詰める音が聞こえてきた。
泰輔が泣くのを堪えているのだとわかって、暗闇のなか手探りで泰輔の手を取った。
指先を握りこむように手をつなぐと、同じように握り返されて、さらに強く抱きしめられた。
最初のコメントを投稿しよう!