【番外編】眠らない星《完》

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 試合が大きく動いたのは、七回表。レオパルズの中継ぎエースが崩れて失点し、2‐4とリードを許してしまう。どうにか二点差に留めて攻撃に回るが、あと一つのところで点にはつながらない。  七回以降、俺たちは会話をする余裕もなくして、周囲のファンと一緒になって声を張り上げていた。  八回、九回と相手の追加点を許さず、迎えた九回裏。ここで点を取れなければ、その瞬間敗戦が決まってしまう。  最終回で打順は先頭に戻った。一番打者が魂の走りで出塁して、続く二番の犠牲バントで塁を進める。三番打者が相手投手の変化球に敗れて三振、ツーアウトになり、後がない場面でリーグのホームラン王である四番が打席に立った。 「頼む、打ってくれぇ!」  祈りのポーズで絶叫した下田の声は、周辺にいる全員の声だった。  ここでホームランを放てば同点になり、この回での負けはなくなる。  ファールが続いた三球目、落ちる球を四番の意地が捕らえて、球は一塁と二塁の間を低く抜けていった。二塁にいたランナーは三塁を踏んで、ホームを目指さずにそこに留まる。ホーム生還を狙うにはタイミングが際どく、捕球したライトが強肩かつ送球のコントロールもよかったため、ベースコーチが止まるように指示を出した。 「うわ、来た……」  熱狂した会場の中でも、草壁の呟きははっきり聞こえた。俺も同じ言葉を心の中で呟いていたからかもしれない。
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