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深夜一時を回った頃、玄関の扉が開いた。
出迎えると、トレーニングウェア姿の泰輔が「ただいま」と呟く。
「おかえり、お疲れさん」
泰輔は何か言いたそうな顔で黙り込む。俺は泰輔に近づくと、首筋に顔を寄せて匂いを嗅いだ。
「っ、佑輝?」
「あれ? ビールくさくないな。びっしょびしょにされてたのに」
「さすがにシャワーを浴びてきた」
泰輔が俺をよけるように半歩後ずさる。俺はそれに反発するようにさらに近づいて、ついでに唇を舐めてやった。
「あ、こっちはちょっとビールのにおいする? 味はしないけど。って俺も飲んでるしよくわかんないな」
泰輔は言葉もなく口を押さえ、俺を凝視していた。耳が少し赤くなっていた。
「ん? そんなに照れる?」
同居を始めて七カ月。
泰輔がまだ俺に、そういう欲も込みで恋愛感情を持ち続けていると知ってからは三カ月。
消せない過去があって、複雑な感情もあって。
だけど、俺は今の泰輔の気持ちに応えたいと思ったから、泰輔を受け止めたし求めた。
友達以上とか恋人とか、明確な名前はつけられなくても、この三カ月は互いの間に今までにない気持ちがあったし、頻度こそ多くなくとも、そういう接触だってあったのに。
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