426人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
「あんまり見ないでくれ……」
身の置き所がないというみたいに、泰輔は手のひらで顔の下半分を隠したまま俯いた。
泰輔を追うように覗き込むと、泰輔は顔を背けて俺から逃げた。
「シャワー浴びてくる」
「いや、浴びてきたんだろ?」
そのまま立ち去ろうとした男は、指摘するとはたと動きを止めた。
「俺もさっき浴びたよ」
そう言って、再び泰輔との物理的距離を縮める。
「なあ、こっち見ろって」
正面へ回り込んで、頑なに俺と目を合わさないようにする泰輔の顔を掴んだ。
「なんで逃げんの?」
顔を固定して無理やり視線を合わせると、泰輔は本気で困ったように目を泳がせた。
こっちに逃がす気はない、と至近距離で睨んでいると、泰輔は観念して俺を見た。
「今日は……しないでおこう」
「……なんで?」
「まだ気が昂ってるんだ。試合が終わって時間が経ってるのに、ずっと興奮が鎮まらない」
泰輔は持て余した身の内の熱を放出するように、息を吐いた。
ドームの中の五万人。そしてテレビやネットの向こうで何百万人が見守る、優勝が懸かった大舞台。自分がミスをすればその瞬間夢が潰えるというとてつもないプレッシャーの中で、これ以上はない結果を出した。
俺だって未だに高揚しているのだから、当の泰輔の興奮状態が続いていても、当然といえば当然だ。
最初のコメントを投稿しよう!