【After Story】残照

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 土曜日のショッピングモールは人であふれ、活気に満ちている。すぐそばを四、五歳くらいの男の子と女の子が走り抜けていって、思わず目で追った。あとから母親らしき女性が「走っちゃだめ」と言いながら慌てて追いかけていく。  もうすぐ自分も、あんな風に子どもに振り回される生活が当たり前になるのだろう。不安や心配事は尽きないが、今はとにかく我が子に会えるその日が待ち遠しかった。  ショッピングカートにはすでにビール2ケースが詰まれ、その他野菜などが詰め込まれていた。車輪のおかげで重くはないが、方向転換の際にやや難儀するカートを押して精肉売り場へ向かう。先に辿り着いていた仲間……元大学野球部のチームメイトたちは、どの肉にするかで揉めていた。 「やっぱ、これはいっとくべきでしょ! あと肉はいくらあっても足りないと思うんスよね」  いい感じにサシの入った黒毛和牛のパックを持った後輩の和田が、真剣な表情で振り向く。 「バカ、お前。佑輝に豚肉と鶏肉買ってこいって言われてるってさっき言っただろうが。そして躊躇なく一番高い肉取るな」  同級生の下田が、和田の頭を叩くと、ぺしっと軽快な音が立った。 「大丈夫スよ、支払いは泰輔さんに回す予定ですから」 「お前がドヤんなよ」  結局カートには豚肉、鶏肉に加えてすき焼き用の高級牛肉が加わり、会計は三万円を超えた。男十人ほどで飲み食いしようとすれば、まあこんなものだろう。黒毛和牛分高くはついているが。
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