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佑輝にはピッチャーらしい我の強さがあった。わがままとか、目立ちたがりとは少し違う。自分の意見を押し通す強さとか頑固さだ。理想やプライドが高いところがあって、仲間とずれることがあったけど、それをうまく補って繋げるのが泰輔の役目だった。
ブランクを経て再会した佑輝が穏やかに見えたのは、そういう部分がほとんどと言っていいくらい、なくなっていたからかもしれない。
佑輝はあの時、仕事や環境、仲間を捨て置いていった。でも、それだけじゃなくて、それまでの自分すらも捨てていったんだと唐突に気付いた。
自分を捨てたくなるのは、いったいどんな気分なのか、俺には想像もつかない。
「さむっ、冷えてきたな」
ひやりとした空気が衣服の隙間から入り込んできて、佑輝が呟く。
「そうだな」
体温と一緒に、さっきまであった酔いも興奮も冷めていた。
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