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喜びで満ちていた胸のなかに、あの違和感が顔を出す。
泣いて、叫んで、嗚咽を漏らして、目の前で苦しんでいた佑輝。あの時、踏み込まなかったのは本当に正解だったのか。
そしてそれを、忘れたことにしてよかったんだろうか。
「おーい、草壁?」
「……え」
「駅、ついたけど。通り過ぎる気か?」
「あ……悪い、ぼーっとしてた」
焦って返事をすると、佑輝に「酔ってんな」と笑われた。
「じゃあな、電車乗り過ごすなよ」
「おお、泰輔によろしくな」
そう言ったら、佑輝は「了解」と笑顔で手を振ってくる。
今の佑輝は、昔みたいに仲間と交流している。新たな目標を持って頑張っているし、泰輔とも仲がいい。泰輔は佑輝のサポートで絶好調で、今夜名実ともに野球界の大スターとして名前を刻んだ。
全部がうまくいっている。
だったらそれでいいじゃないか。何も問題はない。
あの時の自分の選択は間違っていなかった。そう結論付けて駅の構内を歩き始める。
それでも消えてくれない胸の不快感に、思わず足を止めた。目を閉じて大きく息を吐き出してみても、やっぱりはそれは消えないままだった。
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