【After Story】残照

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 リビングのソファに並んで座る。テレビを付けた途端、男の叫び声が聞こえて、大人数の笑い声がどっと響いた。  盛り上がるテレビの中とは正反対に、室内では笑いも起きなければ会話もない。その上、自分から飲みたがったくせに、泰輔はプルタブを起こしたきり、まだ一口もレモンサワーを飲んでいなかった。 「飲まねーの?」 「ああ、飲む」  声を掛けると、思い出したように缶に口をつける。俺も泰輔に続いて、CMで見かけたことがあるパッケージを傾けた。程よい甘さと酸味のあとに、舌の上に苦みが残る。 「こんなのんびりすんの、結構久々だな」  俺は学校とバイトで忙しくしていたし、泰輔は自主トレに精を出しつつ、プロ野球選手としての広報活動に追われていた。年末年始に放映されるテレビ番組の収録にもいくつか参加したらしく、またきっとあいつらが大騒ぎするに違いなかった。 「ああ」  泰輔からは、やっぱり塩返答が来る。
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