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「……そういうことを言うな」
酒のせいではなく目の下辺りを赤くした泰輔に、ニヤニヤ笑いを浮かべる。
ぶっきら棒に響いた声とは反対に、それ以降泰輔は饒舌になった。さっきまでの塩対応が嘘のように、流れているテレビの話や今日の飲み会での出来事を自分から話したし、俺が話を振れば嬉しそうに相槌を打って答える。
「なんか、可愛いな泰輔」
ふと感じたことをそのまま口にする。
泰輔は驚いたように一瞬動きを止めたあと、困った顔をした。
「生まれて初めて言われたぞ、そんなこと」
「えー? 初めてってことはないだろ」
「それに、俺が可愛いって言うんだったら……」
言いかけて、泰輔は唐突に口を噤んだ。
「だったら?」
続きを促すが、待ってみても聞こえてこない。泰輔は、代わりに勢いよく手の中の缶を呷って立ち上がった。
「空になったから、もう一本取ってくる」
「あ、逃げやがった」
聞こえない振りをして、そそくさとキッチンへ向かう背中を自然と目で追った。
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